メルティングダイアリ

ドイツとイタリアがにょたりあです。あとプーがおばかです。苦手な方はご注意ください
オッケーなかたのみどうぞ






























 

メルティングダイアリ

 ヴェストがさっきから落ち着かない。
 窓の曇りを気にしては研磨剤と古新聞を持ち出し、犬の毛がどうたらと言ってクリーナーを掛け、新しくしたばかりの花瓶の水をまた汲み換える。
 俺はといえば室内全方位をそれとなく見渡せる好位置、ソファに陣取って、せわしなく動き回る妹を今日も最高にかわいいぜー、とか思いながら見守っていた。
 ……つい、彼氏をはじめて家に招待してそわそわしてる彼女みたいだ、なんて考えちまって後悔した。ていうか、家に招待してほしけりゃ俺をぶちのめしてから言うんだな、旦那立候補者どもめ。負けねえけど。ていうか認めねえけど。
 彼氏? ヴェストには全世界に自慢できる立派な兄貴――俺だけで十分だ。
「四人だと90゜ずつ……いや、六等分のほうがいいか…? 残りの二切れをさらに半分にして…ああでもそうすると……」
「おい待てヴェスト」
 約束の時間までまだまだあるってのにもうトルテを切り分けようとするから、それだけは止めておいた。ほろほろまぶされたシュトロイゼルがうまそうで、皿に取り分けられてしまえば誤って俺が全部食いかねない。せっかくの妹お手製のトルテだ、一人占めしたいところだが、そんなことをすれば怒られるのは目に見えているので我慢する。どんな表情のおまえも好きだけど、兄としてはそのかわいい顔を怒りに歪ませちまうのはいたたまれないからな! 怒鳴られるのが怖いわけじゃないぜ、断じて。
 それにしても、俺のヴェストをこんなに焦らすとはいい度胸だなあおい、とも思ったが、妹の待ち人もそれはそれはかわいい少女なので文句は飲み込んだ。さっきから妹のために色々と自重できてる俺、いい兄貴すぎるぜー。
 そうこうしてるうちに、やたらと重厚なベルがボーンと鳴って、ヴェストが弾かれたように立ち上がった。客人にすぐ出せるようにと待機させてるケトルとカップを取りに戻るつもりなんだろう。待ち人来たる、で感極まったせいかその白魚のような手からケーキナイフが放り出される。危ねえ、もう少しで兄ちゃん顔面にナイフを生やすところだったぜ。今の回避テク、華麗すぎて俺のかっこよさにくらくらせざるを得なかっただろうから、見なくて正解だったな、ヴェスト。
「やっほードイツー! 遊びに来たよー!」
 軽やかな声と足音を響かせて俺のもうひとりの女神、イタリアちゃんがリビングに降臨、太陽そのものの笑顔をふりまいた。そうして、キッチンに引っ込みかけていた妹の姿を見つけるなり、形のいい胸に思い切り顔をうずめて抱きつく。いつも通りのスキンシップにヴェストは困ったように、どこかくすぐったそうに頬を綻ばせていた。
 あれだな、イタリアちゃんが太陽ならヴェストは月、クールビューティーと名高い美貌にはその喩えがふさわしい。いいこと言った俺。ちなみに俺は燦然と燃える彗星だ。他のやつらはみんなチリな。
「うんっ今日もいいおっぱいしてるー!」
「もう、イタリア……」
 ほやほや花の飛ぶその光景を心のアルバムに保存しておこうと、俺は己の網膜に女神たちの姿を焼き付けまくった。さりげなさを装って俺も二人にハグとキスを求めてみたが、見事にスルーされちまった――そうだよな、月は全てを突き放してなお美しいものだし、太陽は自分が光り輝いてるから周りが見えにくいんだよな。そんなところもかわいいよ、マイネゴッティン。
 今の呟きをイタリアちゃんの兄貴に聞かれたら天井をもぶち破る頭突きを食らわされるだろうから、俺は名残惜しくも二人から視線を外した。弾丸のように飛び込んで来た北半分の少女とは違って、彼女の片割れ、万年やる気欠乏症の南半分の男は面倒くさそうにリビングに顔を出すだろう。挨拶がてら妹自慢(もちろん、我がヴェストの自慢だ)の一つでもしてやらねえと。そう思っていたのに、現れたのはイタリアちゃんの兄ではなく、いかにも神経質そうで無駄に高貴オーラが漂う、眼鏡のお坊ちゃんだった。
「げっオーストリア」
「何ですその顔は。私がイタリアを連れて来たのですよ、感謝なさい」
「……ていうか、迎えがおまえだったから馬鹿みたいに遅かったのかよ」
 苦い顔全開でごちると、オーストリアもオーストリアであからさまに眉をしかめやがった――こいつとは昔から相容れない。そのお上品なお口から雑言が飛び出す前に、ヴェストがやめてくれ、となぜか俺を制した。聡明な妹には、俺が密かに練ってたお坊ちゃんのコーヒーに指を入れる作戦はばれちまってたらしい。あれか、そんなことしたら俺の人差し指が火傷しちまうから止めてくれたのか。
「兄さん」
「わあったよ。何も言わねえ何もしねえ」
 ここはいじらしい我が妹に免じて、こっちが退いてやろう。お坊ちゃんの眼鏡の奥で、俺の多大なる譲歩に礼もないまま紫色が瞬いていた。むしろやれやれと言いたげな(それはこっちの台詞だおいこら)やつに向けて、ヴェストが少しだけ首を傾げ、ぎこちなく口元を緩める。女神の微笑を受けたオーストリアの表情から、険が抜けた。当たり前だ、何の罪もないヴェストに向ける棘はない。オーストリアのやつ(だけじゃなく、全世界)はヴェストに優しくして当然だ。そして俺様に跪け、崇めろ奉れ。ていうか、妹の場合罪はないというより、かわいすぎるという時点でかなりの罪作りかもしんねえな。
「…お…おかえり、オーストリア」
「ええ。ただいま、ドイツ」
「ドイツー、あたしにはー?」
「いらっしゃい、イタリア」
「わはーお邪魔しまっす!」
 ヴェストを中心とした三人の周りになんかすっげえ癒しの空間が広がってて、俺はそこにあんま含まれてないけど泣かない。まあ、俺はアウトローな男だし、そういう優しげな空気にはそぐわないワイルドさを醸してるからな。いや嘘じゃねえって。忘れられて一人楽しすぎるぜーとかじゃねえって。
「今日、イタリアが来るからと思って、フロッケンザーネトルテを作ってみたんだけど……」
「ほんと? わー楽しみだな! あたしドイツの作るドルチェ大好き!」
「よかった…じゃあコーヒー、淹れてくる」
「…ああその前に、ドイツ」
 イタリアちゃんをくっ付けたままのヴェストがもう一度、キッチンに戻ろうとしたのをオーストリアが呼び止めやがった。さっきから俺らに突っかかって、なんだってんだこのお坊ちゃんは。
「手をお出しなさい。両手ですよ」
「両手……?」
 真っ白なブラウスの袖(ヴェストがきっちりアイロンを掛けたやつだ)から伸びた真っ白の手袋(これもだ)をはめた指が、嫌味なくらい優雅に動いた。手をお出しなさい、の言葉のままに水をすくうように十指を丸めたヴェストの手のひらへ、ころん、と小さな箱が落とされる。
「これは…何だ…?」
「貴女に。お土産ですよ」
「私に……?」
 らしくない、はっきりしない語尾がオーストリアに向けられる。半分夢心地にぼうっとしていた妹は、促されるまま箱を開けた。イタリアちゃんと俺も、前から後ろから中身を覗き込む。
 中に納まっていたのは女性用の腕時計だった。
 妹の指がおそるおそる、それを持ち上げる。文字盤を囲んで控え目に、それでも鮮やかな色合いのガラスか何かが埋め込まれていた。「お土産」とか言ってたから、イタリアちゃんを迎えに行ったついでに彼女の家でこれを買ったんだろう。ガラス細工といえばヴェネチアンガラス、この腕時計にはめ込まれてるやつも、イタリアちゃんの元気を写し取ったみたいに鮮やかに輝いてるしな。
 ビタミンカラーを主体とした小さな粒たちによってとりどりの色を散りばめられていてもうるさくなく、文字盤は綺麗にまとまりを見せる。皮のベルトにも施された植物の蔓っぽい細工……なんていうかそんな感じのものが、時計の持つ可憐さをより引き立てていた。
「かわいい……」
 誰に聞かせる風でもなく、ヴェストがぽつり、吐息を溢した。俺の目線よりちょっとだけ下にある睫毛がふるりと揺れて、唇のはじが一ミリぐらい持ち上がったのが見える。
 妹がかわいいって思ったモンは無条件にかわいいわけだから、たとえ憎らしいお坊ちゃんのお見立てだとしても、俺もコレを「かわいい」と認めざるを得ない。ヴェストの甘やかな吐息を耳聡く拾い上げて、それはよかった、とオーストリアが微笑むのも俺的には気に食わない。けど、やつのおかげで妹が喜んでるんだよな。すげージレンマだぜ。
「でもどうして……」
「今まで使っていたもののネジが切れた、と言っていたでしょう」
「いや、あれは、兄さんに貰ったものだし…その、今は修理に出しているだけだから……」
 こいつらのやり取りに引きずられてうっかり失念してたけど、ヴェスト愛用の腕時計はこの俺様がやったものだ。
 いつの間に修理に出してたんだろうか、知らなかったぜ……かなり前(それこそ分割前、いやもっと昔の…確か誕生日だったか?)にやったものなのに、ヴェストはずっと使ってくれてんだよな。俺たち兄妹の誕生の記念に…、と思ってもその時の俺にはやれるものがなかったから、身近にある一番使えそうなものってことで腕時計をやったんだ。そうだ、あれは俺が着けてたやつだった。
 男物だから妹の腕には少しごつくて、今度ちゃんとしたのを贈ってやるからっつってんのに、ヴェストは「これがいい」って言って元・俺の腕時計を使い続けてくれてる。そういやベルトも何度か取り替えてたっけ……お兄さまのこともそれくらい大事に大事にしてほしいもんだと思ったのは内緒だけど、やっぱ俺の妹は最高にいい女だ。いとおしさが募る。
 ……ちゃんとしたのをプレゼントしてやるからって約束した「今度」が、ずーっと延び延びになっちまってるな。ごめんな、ヴェスト。
「おいお坊ちゃん、ヴェストには俺の腕時計があんだよ。今さら新しいのなんて、使えねーの」
「ですが、今は修理中なのでしょう。その間ずっと、時計なしで生活するのですか? ……これだからお馬鹿さんは」
 オーストリアのやつ、聞き捨てならないセリフを吐きやがった。いくら俺が寛大でも、これは黙ってられねえ。
「うるせー! いらねーもんはいらねーっつってるだk」
「兄さん、やめて」
 だが、声を張り上げたところで再度の制止がかかった。それに加えて、いくらかの非難を含んだ視線をヴェストは向けてくる。えー。なんでだよ。
「おまっ、兄ちゃんバカにされてんだぞ、それでいいのか」
「言い争いはよしてと言っているだけ」
「けどなぁ、」
「兄さんは馬鹿じゃないって、私は知ってる」
 俺のいかった肩を元に戻すように、妹の柔らかい声が鼓膜に浸透していく。
 お坊ちゃんに馬鹿馬鹿言われんのにはいい加減腹が立ってたんだが、ヴェストの穏やかな言葉に包まれた俺は、うずまく苛立ちを萎えさせることに成功していた。
 確か、日本ちゃんに教えてもらったんだよな、こういうのをツルノヒトコエ? って言うんだって。すげえよヴェスト、おまえ、いいセラピストかカウンセラーになれるぜ。俺が自制のできる男だってのもあるだろうけど、それでも、我が妹は人を癒す力を十分に持っていると思われる。ヴェストの胸に顎を乗せたイタリアちゃんも、玲瓏なツルノヒトコエ(と俺の大人な対応)に感心してるみたいだし、ここもやっぱり俺が退いておくのがオーストリアとの違いを見せるにも丁度いいのかもな。
「ちぇっ…しゃーねえな」
「ありがとう、兄さん」
「……ドイツ、貴女の腕時計が直るまでの繋ぎにでも、それをお使いなさい。プロイセンのお馬鹿に遠慮することはありませんよ。“繋ぎ”なのですから」
「……………」
 『繋ぎ』の部分をやたらと強調して、ちょっ、こっち睨みやがったこいつ。これだから根に持つタイプはヤなんだよ。ヴェストだってオーストリアのことも「言い争いはよして」って注意すりゃあいいのに、こういう時だけは特殊魔法・見て見ぬ振り発動してさ、これってヒイキじゃねーの?とか思っちまう。
 ジト目で睨んでみた妹は、あろうことか時計の文字盤とお熱く見つめ合っていた。兄貴を脅かすお坊ちゃんの嫌味に気付く余裕なんてないくらいの熱中ぶりだ。……なんてこった、心俺のもとにあらず。
「まあ、貴女には…スイスの時計のほうが正確無比で肌に合うかもしれませんが」
「そんなことない」
 ふわっと顔を持ち上げたヴェストが、今度は文字盤じゃなくお坊ちゃんと見つめ合う。たっぷりの幸福感を胸に吸い込んで、俺の女神はこちらの顔が溶けそうな微笑みを浮かべていた。ていうか実際、兄ちゃんのほうは溶けちまったよ。
「……ありがとう」
 大事に、する。
 一言一言ゆっくりと噛みしめて、オーストリアのために感謝の心を紡ぐ妹。綺麗な二つのブルーは心なしか潤んでいるように見えた。……あれ? なんか、俺が時計をやった時よりも心動かされてね? 気のせいか? 気のせいだよな?
 イタリアちゃんがにこにこと、あたしも一緒に選んだんだよー、と、笑う。
「かわいいでしょ?」
「うん、とても…」
「ドイツなら気に入ってくれると思った!」
 イタリアちゃんが子犬なら、今間違いなくしっぽを振ってるんだろうな。ああイタリアちゃん、せっかくなら俺の腕時計も選んでくれねえかな。ヴェストとデザイン違いとか、そんな感じでさ。俺赤がいいな。……つっても見つめるだけじゃ俺の思いは伝わらないみたいなんで、今度自分で買いに行くことにするぜ。
 ところで、さっきから我が妹は蒼い宝石色の目をとろけさせて、飽きもせずに同じ高さにあるお坊ちゃんの顔を眩しそうに見ていた。
  ……さっきから妹が落ち着かない。
 そわそわ浮わつく心を悟られまいと妹は頑張って平常心を保ってるつもりみたいだが、俺には分かってる。イタリアちゃんが遊びに来てくれたのも嬉しいんだろうが(俺だって嬉しいよ)、それよりもオーストリアが気になるんだろ。トルテを口に運ぶオーストリア、やつから下される評価や向けられる視線に、ヴェストが裁判の判決を待つみたいに緊張してる。
 何がいいんだか、綺麗な碧眼がお坊ちゃんの姿だけでなく、やつの残した気配まで追ってんだよ。オーストリアが家にいる時でもいない時でも、いっつもそんな感じなんだよな。一緒に暮らしてて、ヴェストの視線をものともしない――むしろ気付いてないお坊ちゃんの鈍さにはほとほと呆れる。兄としては、気付いてんなら気付いてるで癪だし殴りたくなるけど。
 とりあえず、ヴェストの心なんかひとつも知らないで、こうして時計を軽くプレゼントしてみせるオーストリアの神経が知れない。おまえには見た目だけは抜群にいい凶暴女がいるだろーが。その上さらに俺からヴェスト(とイタリアちゃん)まで取り上げようって魂胆かよ。やっぱ、俺がシュレジェン奪ったの、そんなに根に持ってたのかよ。
 特別な意味のないはずの腕時計を宝物みたいに抱えて、ヴェストは特別な意味を込めた視線でもってオーストリアに微笑みかけている。その、歓喜とか愛や思慕だとかが全部詰まった超絶かわいい笑顔が証明してる。贈り物とか、あれじゃねえの。……効果てきめんってやつじゃねえの。
 今ヴェストがとろけきってるのは、お坊ちゃんの放ったテンプテーション魔法によってステータス異常を起こしてるせいだからだと思わずにはいられない。
 でもなあ……こんな幸せそうな妹に「そんな時計着けるな」とはどうしても言えるはずがない。結局、俺はヴェストとオーストリア、イタリアちゃんが醸す和やかな時間をぶち壊す算段を丸投げした。あーちくしょー。

 ……悔しかったから、トルテの切り分け役に立候補して(ヴェストに任せるとミリ単位で悩んだ挙げ句、分度器を持ち出すだろうし)、お坊ちゃんの分だけ小さいのにしてやったけどな。


(俺様日記特別別冊 マイネ・ヴェスト・ターゲ・ブーフ)




「……ふう」
 今日の日記も相変わらず素晴らしい描写力でばっちりドラマチックに書き記せた。やっぱり俺ってすげえ。なんたって、リビングに高性能録音器具を忍ばせてるからな。いやいや盗聴とかじゃないし。俺もその場にいるし。ほらあれだ、記憶との差違をなくすためにだな、確認しながら書いてんだよ、日記をさ。いつでもヴェストとイタリアちゃんの声が聞きたいからとかじゃねえって、全然。別にリピート再生とかしてねーよ。
 ……おっと、ノックの音が聞こえるんで今日の分はそろそろ〆るか。ヴェストのやつ、前みたいにお化けが怖くて「兄さん、私が寝るまで起きていてくれる?」とか言ってきたりしてな。かわいいな。
「――、さ――…!」
 っておいおい、まじでそんなに怖いのかよ? あんまり激しく叩くなよ、俺様に似てスマートで屈強なドアと蝶番もさすがに壊れちまう。不穏なノック音の合間に、鬼気迫るヴェストの声が聞こえる。扉の軋みと同じくらい、妹のアルトは揺らいでいた。
「――さ、この…械は――!」
 え? この……カイ? カイってなんだ、よく聞こえねーな。  これ以上待たせちまったらベソかいちまうだろうから、そろそろ迎え入れてやらねえとな。今夜のことは、またこのヴェストメモリアルに残しておこう。とりあえず、ビブラート掛かった妹の声もかわいいってことは分かったから追記は必須だな。しっかし、いい加減、通常の俺様日記に別冊のほうが追い付きそうな勢いだぜ。
 俺は恭しくペンを置いた。素早くドアの前に移動すると、ノックの音が激しくなったように思われた。鍵なんかはないが、俺から了承がない限りヴェストが勝手に部屋に入り込むことはない。俺によく似て、妹は真面目で律儀だからな。
  ……それにしてもこのドアめ、ヴェストと俺を隔てやがって。フライパン女の猛攻をも防ぐ頼もしい防壁にもなるドアだが今は憎らしさが勝っている――ああ、俺たち兄妹を強制的に分断しやがったいつかの忌々しい壁を思いだしちまった。だが、俺にとっての最優先事項は過去より現在、昔の怒りに身を任せることではなく、扉の向こうでお化けかなんかの恐怖に苛まれるヴェストを救ってやることだ。
 なるべく安心させるような笑顔を心掛けながら、半泣きであろう妹のためにドアを開けてやる。
「どうしたよ、なにがあ」
「兄さん、この機械はなに…! これ、盗聴器だろう!」
 あれ、泣いてなかった。ていうか、バレてた。


プーおにいやんがこんなSS仕立ての日記書いてたら、ばかわいいと思います。
あと、こっそり、墺←にょいつが好きであります。