その聲で呼ばないで
現代パラレル、イギリスが上司でプーは新人なオフィスラブです。人名使用。
イギリスがエロ親父でベッタベタな展開が好きだとかだったらいいよね、という話から盛り上がったもの。
さくがブログにあげてたパジャマでmornin!な英普関連の話だったりします
オッケーなかたのみどうぞ
その聲で呼ばないで
衣擦れの音に、肩がはね上がる。
振り返れば、アーサーがスーツの上衣を脱いだところだった。
「バイルシュミット。なにを怯えることがある?」
きっちり結わえられたタイを緩めながら、彼は上衣をハンガーに掛ける。ギルベルトの反応に喉の奥で笑うと、ゆっくりベッドに腰を下ろした。
身の丈に合わないホテルのディナーに連れてこられ、「部屋は用意してある」と言われるまま、ギルベルトはこの一室に身を置いている。
経緯は、というかきっかけはほとんど覚えていないのだが、目の前で優雅に足を組む上司が言い出したことなのだろうと思う。でなければこんな落ち着かない場所に来るはずがない。さすがは有名なホテルだ。男同士でスイートにチェックインしても、従業員たちは訝しげな表情すら見せなかった。
棒立ちで視線を泳がせるギルベルトに、アーサーが手を差し伸べる。
「おいで」
まるで、子どもを呼ぶような柔らかな声音。一瞬躊躇ったものの、彼の声にはギルベルトを動かす何がしかの強制力があった。ぎこちない足取りがアーサーに向く。
「そこまで警戒せずともいいだろう」
掲げた手のひらはそのままに肩をすくめてみせた彼の唇に、苦笑、のようなものが浮かんでいた。アーサーは手の届く範囲に入ったギルベルトの腰を絡め取ると、自分のほうへ引き寄せる。
「そんなつもりは…」
ない、とは言い切れなかった。羞恥心だとか背徳感だとか、あまり心地のよくないものが胸中にぐるぐると渦巻いている。腰に力が掛けられて、胸が反る。予想していたよりも強い力に膝が折れたが、何とか踏ん張って、上司の顔面との激突は免れた。
「では、緊張しているのか?」
アーサーが下腹に額を押し付ける。ひく、と思わず強ばった体にまた、殺した苦い声が漏れた。息が詰まる。
「何故接触を恐れる? バイルシュミット」
「だって、カー…クランド、課長は、つ………突っ込むほう、だから…、恥ずかしく…ないかも、しれないですけど、」
ギルベルトは足りない酸素を補おうと、肩を上下させて答える。心拍数は上がる一方で、腰に回ったアーサーの腕、腹に寄せられたアーサーの頭を押し返すことなどできようもない。
今まで男同士で体を繋げる術があることを知らなかったし、自分が女役になるとは思いもしなかった。
浮いた肋の一本一本を、先週付けた赤い印を、そして、男を受け入れるその場所を。アーサーの手は、ギルベルトの何もかもを確かめるように動き回る。普段はひやりとしているくせに、直に肌に触れてくる時の彼の指先は、信じられないくらい熱い。そんな手のひらに求められ、腰を掴まれて、固まらないほうがおかしいと思う。
最中は思考ごとぐちゃぐちゃに融かされかき乱されて記憶が飛んでしまうのだが、それでも、ギルベルトの脳裏には快楽に溺れ切れない理性が残っていた。アーサーとの行為はおそらく、何度経験しても慣れることはないだろう。
「ならば、私に挿れてみるか?」
私は構わんが。吐息が腹にかかる。アーサーの喉仏が揺れるのを、空気の震えで悟った。
「…それって、」
「もっとも、お前にできるとは思わんがな」
「……………」
くつくつ。低い声の振動がギルベルトの腹にも伝わる。端からそうさせてくれるつもりなどないのだ。からかわないで下さい、言い掛けた口は意味のない声をあげるのみにとどまった。急に、捕まった腰を引き倒されたのだ。されるがままベッドに沈んだギルベルトの体を、アーサーは吟味するように眺めている。眼鏡の奥で満足そうに細まる緑、そこに宿る欲情のいろを見て取って、カッと頬が焼けた。ギルベルトの顔の左右に手を付いて、アーサーが覗き込んでくる。男ふたり分の体重に、ぎしりとスプリングが悲鳴を上げた。至近から注がれるまなざしは肉感となって、ぞくぞくとギルベルトの背を撫でる。耐えられない、逃れられない。ふいと顔を逸らす。ごまかしようもなく赤味の差した頬を晒すことになるが、見つめ合うよりは数百倍ましだ。
「め、眼鏡…っ。外して、下さい」
「それはできない」
アーサーは投げ出されたままだったギルベルトの片手に、自分のそれをゆっくりと絡める。絡み合った手のひらは熱く、熱を発しているのはどちらなのか、最早分からない。彼に触れられた部分から、どろどろに融かされているような気さえした。アーサーの顔が耳元へ下りてくる。低く、囁き込まれる。
「お前の顔が、見えなくなるだろう……ギルベルト、」
アーサーの片手が、頬のラインをなぞるように這う。吐息混じりの声に名を呼ばれて、びくりと、腰が浮いた。押し付けられたアーサーの腰もまた明らかに熱を持っていて、彼に求められていることを嫌というほどギルベルトに知らしめる。限界だった。
「も、かちょ……」
「こういう時くらい、味気のない呼称は止めてくれんか」
アーサーが何を期待しているかは分かっている。耳朶を優しく噛まれ、甘い疼きが体を支配しはじめる。熱に浮かされた頭で、ギルベルトはうわ言のように叫んだ。絡まった手のひらに汗が滲む。
「………アー、サー……はや、く」
名を呼ばれれば、いとも簡単に陥落してしまう。いくら理性が歯止めを掛けようとも、後で羞恥心にのたうち回ることになろうとも、堪えきれない。ギルベルトだって、どうしようもないほどアーサーを求めているのだ。
彼はギルベルトの頬にひとつ音を立てて口づけると、苦笑気味に喉を鳴らした。
「お前は卑怯だな。……そんな声で言われてしまったら、我慢が利かなくなるだろう」
(聲に、犯される)
ベタな展開を目指して\(^o^)/
ところでエロ親父なイギリスってありなんですかね…!作文は一時期こんな英普で大フィーバーしてました…笑